中小企業の資金繰りが厳しくなる原因と改善方法
資金繰りとは、企業がいつどのくらい資金を必要とし、いつどのくらいの資金が入ってくるかを予測し、資金不足を避けるための計画や対策を立てることを指します。中小企業は大企業より資金調達の選択肢が限られており、資金繰りが厳しくなることはよくあります。
また、上場企業は決算書のうち、現金の流れを把握するための”キャッシュフロー計算書”の作成義務がありますが、中小企業は作成義務がありません。中小企業が作成する決算書は、利益や資産を把握するために作成しており、現金の出入りに関係なく会計上の事実が発生したときに計上します。つまり、利益や資産と同額の現金が実際に手元にあるわけではありません。そのため、利益が出ている企業でも、支払いに必要な現金が不足し、資金繰りに困ることがあります。
この記事では、資金繰りが厳しくなる原因とその改善策について解説します。
資金繰りが厳しくなりやすい業種
教育業界のように売上が安定していて、かつサービス提供より先に顧客からの支払いが発生する業種は、得た収入で費用を支払うことが出来るため、資金繰りに比較的困りにくいです。ですが、以下のような業種や企業は資金繰りに厳しくなりやすいです。自社の特徴を把握し、資金繰りに困らないように早めに対策を立てましょう。
- 小売業・飲食業
小売業や飲食業は需要の変動が大きく、季節やイベント、トレンドなどによって売上に大きな影響を受けることがあります。需要に山と谷があり、バランスを取ることが難しく、在庫管理や諸々の支払い時期が課題となります。
特に卸売業は粗利率が低く、粗利率10%以下程度であることもあります。例えば、粗利率が10%の場合、1000万円の粗利益を得ようとすると、1億円売上げなければなりません。そのため、まわすお金を増やし、大量に仕入れて大量に卸すことで利益を増やします。しかし、仕入れた商品が売れずに在庫になると資金繰りにすぐに影響するため、特に在庫管理は注意が必要です。 - 製造業・建設業
製造業では原材料の調達や水道光熱費に多額の資金が必要です。生産計画のズレや在庫の過剰などによって、資金の不足や過剰が生じることがあります。
建設業ではプロジェクト毎に、原材料や資材や人件費や土地代等に多額の資金が必要です。プロジェクトの進行状況や顧客の支払い遅延などが資金繰りに影響を及ぼすことがあります。
また、製造業や建設業は顧客の支払いが翌月か翌々月になることも多く、また手形による支払いによって実際に現金が得られるのは4か月先というのも少なくありません。そのため、手形や小切手を使用することも多いですが、手形や小切手は不渡りを1回目から6か月以内に2回目を行うと銀行取引停止処分となり事実上の倒産になるため注意が必要です。 - 新興産業やベンチャー企業
成長段階にある新興産業やベンチャー企業は、投資や成長に資金を要することが多いですが、利益がまだ安定していない場合もあり、資金繰りの課題が生じることがあります。
中小企業の資金繰りが厳しくなる原因
中小企業の資金繰りが厳しくなる原因は、次の5つです。
- 過度な借入や無計画な借入
- 売上の変動が大きい
- 資金調達が難しい
- 高額な固定資産の購入
- 過度の節税対策
- 不要な在庫の増加
それぞれ、詳しく解説します。
1. 過度な借入や無計画な借入
過度な借り入れや、無計画な借入によって債務負担が過剰になるケースがあります。一度に返済する金額が高いと、利益が減った時や顧客の支払いが遅れた時に、借入の返済が難しくなります。また、借入には利息がかかるため、過度な借入によって利息負担が増えると、資金繰りを厳しくする要因となります。
2. 売上の変動が大きい
多くの中小企業は収益が一定でなく、季節性や市場変動の影響を受け、売上が大きく変動する場合があります。売上が大きく減少すると現金が少なくなり、支払い期限が迫る債務や給与の支払いに十分な現金を確保できなくなります。急に需要が大きく増加すると、それに対応するための原材料調達や生産に伴う費用に充てるための現金を用意することが難しくなります。このように、資金繰りを厳しくする要因となります。
3. 資金調達が難しい
銀行は融資の際に企業の返済能力や信頼性を評価します。以下のような企業は評価が低くなり、希望金額の融資が受けられず、資金繰りを厳しくする要因となります。
- 過去に過度な借入をしたことがある
- 現在、多額の負債を抱えている
- 担保となる物がない
- 収益が不安定
- 新興産業やリスクの高い業種
4. 高額な固定資産の購入
不動産や新しい設備、機械を購入する場合、一度に多額の支払いを行いますが、固定資産は減価償却として経費を計上します。そのため、例えば1000万円の利益があり、1000万円で固定資産を購入し現金が0円になったとします。しかし決算書上は減価償却として200万円しか経費として引かれないとすると、800万円の利益に対して税金がかかります。このように、実際に手元に残っている現金と関係なく税金が高額になり、資金繰りを厳しくする要因となります。高額な固定資産を購入する際は融資を受ける等、手元に現金が残るように対策を行う必要があります。
5. 過度の節税対策
節税対策で経費にお金を使うことにより、利益を減らし節税を行う企業が多くあります。しかし、過度の節税により手元に残る現金が少なくなり、資金繰りを厳しくする要因となります。利益が増えた分、税金の納付額が増えることを避けたい企業は多いですが、過度な節税は会社の体力を奪うだけなので、適度な節税にすることも必要です。
6. 不要な在庫の増加
代金の支払いが先行する在庫は、増えれば増えるほど、現金を減らし資金繰りを悪くする要因となります。また、在庫の保管にはスペース、保険、管理人件費などの経費を増加させます。そして、そのまま売れないと不良在庫となります。なるべく在庫は最小限に抑え、使える現金を増やすことが重要です。
資金繰り改善方法
中小企業の資金繰りを改善する方法は、次の4つです。
- 余裕のある返済計画を立てる
- 売上の高い時期に合わせて決算月を決める
- 複数の資金調達源を活用
- 徹底した在庫管理
それぞれ、詳しく解説します。
1. 余裕のある返済計画を立てる
融資には金額、返済期間、金利の条件が様々あります。金利ばかりに注目しがちですが、返済期間をしっかり確認することが重要です。例えば、1000万円を5年で返済する場合、1年間で200万円、1か月で16.6万円になりますが、1000万円を10年で返却する場合、1か月で8.3万円になります。一度に返済する金額を抑えて現実的な返済計画を立てるようにしましょう。
また、途中で融資条件を変更し返済期間を延長すると、次の融資が受けられなくなることがあるため、注意が必要です。もし返済出来ない見込みが立った場合は、一度すべて返済してから新たに長い返済期間の融資を受ける、借り換えがおすすめです。やむを得ず延長する場合は、早く延長し使える現金を多く残すようにしましょう。
2. 売上の高い時期に合わせて決算月を決める
税金の納付時期が、売上の一番高い時期に来るように、決算月を設定するのがおすすめです。税金の納付は決算月の翌々月です。つまり、売上がピークの頃に決算月を設定すれば、余裕がある状態で税金の納付が出来るのです。例えば、12月のクリスマス時期に売上がピークとなる洋菓子店の場合、11月に決算月を設定し、1月に税金の納付を行うのです。
また、税金の滞納があると融資が受けられなくなるため、余裕のある計画を立てましょう。
3. 複数の資金調達源を活用
政府の助成金や、銀行融資、クラウドファンディングなど複数の資金調達源を活用することで、リスクを分散し資金調達の柔軟性を高めることができます。また銀行融資でも、複数の金融機関に分けることが一般的です。
4. 徹底した在庫管理
代金の支払いが先行する在庫は、現金になるまでに時間を必要とします。価値の下がった在庫は見切り処分、投資価値のある在庫かどうかを見極める必要があります。徹底した在庫管理をするには以下のポイントを確認してみましょう。
- ABC分析の実施
商品をA、B、Cのカテゴリに分けて、売上高や利益率に基づいて優先度をつけます。Aクラスの商品に対しては特に注意を払い、適切な在庫レベルを維持します。 - 定期的な在庫点検
在庫点検を定期的に行い、過剰在庫や不良在庫を特定します。在庫の正確性を確保するために、手作業での点検も有用です。 - リードタイムの短縮
供給先との協力を通じて、リードタイムを短縮する方法を検討します。迅速な製品の到着により、在庫レベルを最小限に抑えつつ需要に対応できます。 - デジタルツールの活用
在庫管理ソフトウェアやPOSシステムなどのデジタルツールを活用して、在庫情報をリアルタイムで追跡・管理します。これにより、正確な在庫レベルを把握できます。 - 需要予測の改善
過去の売上データや市場トレンドを活用して、正確な需要予測を行います。 - 売れ残り在庫の処分
不良在庫や過去に売れなかった商品を処分することで、在庫を最適化します。セールや特別なイベントを通じて売却することができます。 - 常に最新の情報を共有
在庫情報をチーム全体で共有し、誰もが正確な情報を把握できるようにします。これにより、不足や過剰在庫が早期に検出できます。
資金繰りの改善を実施する際に意識したいこと
中小企業の資金繰りの改善を実施する際に意識したいことは、次の4つです。
- 計画的な予算編成
- 緊急時の対策策定
- 持続的な改善と学習
- 財務アドバイザーの活用
それぞれ、詳しく解説します。
1. 計画的な予算編成
予算を計画する際は、予算期間内に見込まれる収入と、予算期間内に発生する支出を詳細に計画するように意識することが大切です。予算期間中は、実績と予算の比較を行い、進捗を逐一確認します。そして予算との差異を分析し、適切な措置を取ることで予算達成に向けて行動します。これにより、将来入ってくる現金と必要になる現金を予測し、必要な資金調達を計画的に行うことができます。
2. 緊急時の対策策定
突発的な支出や予測外のリスクに対処するための緊急対策も用意しておくことが重要です。予期せぬ事態に対応できる資金を確保しておくなどの手段が考えられます。
また、取引先事業者が倒産した際に無担保・無保証人で借入れできる「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」に加入しておくこともおすすめです。1年以上納めていれば自己都合であっても解約時に解約手当金を受け取ることができます。また、確定申告の際、掛金を損金(法人の場合)、または必要経費(個人事業主の場合)に算入できるため、節税対策にもなります。
3. 持続的な改善と学習
資金繰りの改善は一度だけでなく、持続的な取り組みが必要です。日頃から過去の振り返りと学習に意識して取り組み、過去の課題から得た知識を活かし、今後の戦略に反映させることが重要です。
4. 財務アドバイザーの活用
専門的な知識を持つ財務アドバイザーを活用することで、中小企業の資金繰り課題に対する効果的な戦略を立案する手助けができます。財務の専門家と連携することで、より戦略的な資金管理が可能です。
まとめ
収益の不安定性や資金調達の難しさなどにより、利益が出ていたとしても資金繰りが厳しくなることは良くあります。しかし、余裕のある返済計画や、複数の資金調達源の活用、徹底した在庫管理などを実行することで、資金繰りを改善することができます。自社の特性を理解し、適切な対策を講じましょう。
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