【経営者必見】事業承継とは?中小企業経営者が事業承継を効果的に行う5つのステップ

経営者にとって、事業承継をどう取り組むかは、大きな課題です。どんな経営者でも、いつまでも会社を率い続けることはできないうえに、事業承継には時間がかかります。

社内に混乱がなく、通常の業務に支障がないようにするにはどうしたらよいか、悩みは尽きないことでしょう。そこで今回は、事業承継の方法とポイントについてまとめました。

全体像を把握すれば、事業承継への一歩となるはずです。ぜひ参考にしてみてください。

事業承継とは?

事業承継とは、会社の経営を現経営者から別の経営者に引き継ぐことです。

似ている言葉として事業継承とも言われますが、この2つには次のような違いがあります。

承継:地位・事業・精神などを受け継ぐこと。

継承: 地位、権利、義務、財産などを承継すること。

つまり、『事業承継』では、会社の経営権や資産だけでなく、会社の想いや経営理念、文化なども受け継がれるのです。

中小企業においては、オーナー経営者の能力や人柄が会社の強みや魅力となることが多いので、誰を後継者にするかは非常に重要なポイントです。

慎重に検討した上で選択する必要があります。

中小企業における事業承継の現状

中小企業庁が2020年3月31日に策定した「中小M&Aガイドライン〜第三者への円滑な事業承継に向けて〜」では、中小企業の現状を以下のように述べています。

日本全体では、2025年には平均引退年齢である70歳以上の中小企業・小規模事業者が約245万人存在し、そのうち約半数(127万人)に後継者がいないと予測されています。

参考:中小企業庁「中小M&Aガイドライン~第三者への円滑な事業引継ぎに向けて~」

つまり、今後5年以内に経営者が退任する可能性がある企業の約半数は、後継者が決まっていないということです。

後継者が決まっていない中小企業がこのまま何もしなければ、廃業するしかないでしょう。

これにより雇用の喪失や連鎖倒産を招き、日本社会全体に大きな影響を与えることは間違いありません。

したがって、中小企業の円滑な事業承継は、日本経済の将来を大きく左右するといっても過言ではないのです。

事業承継の種類

事業承継には、大きく分けて以下の3つの種類があります。

  • 親族内事業承継
  • 社内事業承継
  • M&A事業承継

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

1.親族内事業承継

親族内事業承継とは、親族に事業を承継させることで、経営者の子供や配偶者、兄弟姉妹などに承継する方法です。

親族内事業承継のメリットは、「後継者が見つかりやすい」「資産を移転する際に『相続』『贈与』など承継方法の幅が広い」ことです。

しかし、「親族内に後継者になりたい人がいるとは限らない」「経営者としての資質に欠ける人が後継者になる恐れがある」などのデメリットもあることに注意が必要です。

2.社内事業承継

社内事業承継とは、自社の従業員や役員の中から後継者を選定して行う事業承継の方法です。

メリットとして、社内での実務経験やノウハウがあり、事業内容や企業方針を把握していて、なおかつ信頼できる人材に承継させられることから、引き継ぎにかかる時間やコストを抑えられることが挙げられます。

一方、デメリットとして「株式を取得するための資金がない」「後継者に経営者としての資質が欠けてしまう可能性がある」といった要素があるため注意してください。

3.M&A事業承継

事業承継のもう一つの方法として、企業や事業を第三者に売却し、その企業が事業を引き継ぐことをM&Aといいます。

M&Aによる事業承継には、「従業員の雇用を確保できる」「買い手の資本力やブランド力を活用することで事業を安定化できる」というメリットがあります。

一方、「税務・会計リスクが伴う」「希望する条件に該当する後継者がいない」といったデメリットも否定できません。

事業承継が進まなければ、会社は廃業になる

事業承継が進まない場合、最終的には廃業しか選択肢がありません。

廃業の場合、事業の種類によって多少異なりますが、設備や施設、在庫の処分費用が発生します。また、長年働いてきた従業員を解雇する必要も出てくることから、精神的につらく感じることも少なくはないでしょう。

さらに、仕入先のビジネスも大きなダメージを受けることになります。

これらのことから、廃業を避けるために、適切な事業承継の方法を採用すべきです。

事業承継の動向

上記で事業承継の種類について解説しましたが、実際の事業承継の種類別比率を見てみましょう。

親族内事業承継の割合

創業者4.9%
親族内承継38.3%
内部昇格31.7%
外部招聘7.6%
その他18.4%

出典:帝国データバンク「全国・後継者不在企業動向調査(2021 年)

まず、「創業者 4.9%」という数字は、後継者に引き継いで事業を退いた元経営者が、何らかの事情で経営者として再登場したことを意味します。

これは、後継者が経営者として失敗した可能性もあります。

最も多いのは「親族内承継」(38.3%)で、2年前の調査の39.1%から減少しています。

親族内承継で最も期待できるのは経営者の子供ですが、近年は少子化や価値観の多様化により、親の跡を継がない子供が増えており、親族内事業承継が減少している要因の一つといえるでしょう。

次に、親族内事業承継の減少を補う次善の策として、内部昇格による事業承継が活用されていることが推測されます。

外部招聘は、複雑な事業承継ですので、取引先や金融機関などから信頼できる後継者を招き、事業を引き継いでもらうというもので、全体の割合として少ないことが見て取れます。

最後の「その他」は、M&Aによる事業承継を差します。

ただし、公的支援機関である事業引継ぎ支援センターの後継者人材バンクを通じた後継者候補の紹介もあり、厳密にはすべてがM&Aによる事業引継ぎというわけではありません。

中小企業が抱える事業承継問題

日本の中小企業で多く行われてきた親族内事業承継は、年々減少傾向にあります。

かつては親族を後継者とする事業承継は多かったのですが、いまでは親族内に後継者候補がいるケースが少なく、後継者が不足している、あるいは後継者の確保が困難な状況が生じているのです。

中小企業の約61%が後継者を見つけられていない

前述の帝国データバンクのデータ「全国後継者不在企業調査」によると、2021年の後継者不在の中小企業の割合は、61.5%と2011年以降最も低くなっています。

しかしこれは決して安心できる数字ではありません。

事業承継問題に直面している経営者の年齢を60歳以上と仮定すると、各年齢層における後継者不在企業の比率は以下のようになり、多くの企業に当てはまる問題なのです。

60代:47.4%

70代:37%

80代以上:29.4%

後継者問題に頭を悩ませないためにも、40代、50代のうちから手を打っておくのが得策だといえます。

経営者の意識の変化

親族内事業承継が減少している要因として、「少子化」と「価値観の多様化」の2つが挙げられます。このうち、価値観の多様化には、家族側からの視点と経営者側からの視点があると考えられます。

かつては、家が事業を営んでいれば、子供が親を継ぐことは当たり前なことでした。しかし、高度に文明化した現代社会では、仕事と人生の価値観について、異なる考え方や視点が生まれ、その結果が価値観の多様化だといえます。

近年では義務の呪縛から解放され、親の跡を継がずに自由に働くことを選択する子どもが増え、親の跡を継ぐ子どもが少なくなってきました。

同時に、親の経営者としての考え方に変化が生じていることも指摘されています。以前であれば、後継者を立て、何が何でも会社を存続させることが当然でした。

しかし、社会や経済が複雑化し、国内市場が飽和状態から衰退へと向かう中、いつ会社が危機的状況に陥るかは誰にも分かりません。

そのため、そのような環境下で子供に無理に会社を継がせても苦労させるだけなのでやめよう、という考えに転じる経営者もいるのです。

子供の幸せを願って事業を承継させない、という選択も増えてきています。

円滑な事業承継のために中小企業ができること

事業承継のプロセスはケースバイケースですが、以下の基本ステップを踏むことで、スムーズな事業承継が可能になります。

大企業とは異なる視点で計画を立てる必要があるため、中小企業ならではの課題やリスクを認識し、各ポイントを押さえるように意識しましょう。

1.事業承継の必要性を認識する

事業承継は決して簡単に進められるものではありません。企業によっては計画から実際に事業承継するまでに10年以上かかるケースもあります。準備期間だけでも数年かかることもあるので、まずは経営陣が事業承継の必要性を認識し、モチベーションを下げないようにすることが重要です。

経営者の中には、事業承継については「顧問弁護士に聞けばわかる」「公的な窓口で相談できる」と思っている人もいるかもしれませんが、中小企業の事業承継はプライベートな問題であることが多いのです。

つまり、専門の支援機関でも踏み込めない領域なので、自ら行動しなければ有益な情報を得ることは難しいでしょう。

ちなみに、事業承継の計画をスタートさせるタイミングは、引退を予定している5〜10年前が最適と言われています。

事業承継の準備にはエネルギーも必要ですから、なるべく体力のあるうちに始めることをおすすめします。

2.事業の状況や課題を可視化する

事業承継の準備は、自社の現状を正確に把握することから始まります。現経営者が退任して終わりではなく、会社を永続的に存続させるための様々な方策を検討する必要があります。

その際、ぜひやっていただきたいのが、経営状況や課題の「見える化」です。財務情報、業績、事業承継に関わる人物を可視化し、グラフ化することで、事業承継までに解決すべき課題を明確にすることができるのです。

事業承継では、この他にも様々な情報や課題を可視化する必要があり、経営者だけで作業を進めることは困難です。深刻な問題を見落とさないためにも、何か悩みがあればすぐに専門家に相談することも検討しましょう。

3.事業承継のための経営改善

見える化によって現状の課題が明確になったら、次は事業承継に向けた経営改善のステップです。

一見、定年前の経営改善は無意味に思えますが、後継者不足に悩むことの多い中小企業にとって、大きな効果をもたらすことがあります。

例えば、業績不振や多額の負債を抱える企業では、後継者の確保を拒むケースも少なくありません。自分たちの負担が大きくなるのであれば、安定した経営者を確保したいと考える人が多いのです。

したがって、円滑な事業承継を行うためには、後継者が納得する形で会社を引き継ぐ必要があります。実際、経営改善に取り組んだ結果、それまで否定的だった後継者が事業承継を決意するケースは少なくありません。

経営改善を実施できる期間には限りがあり、すべての課題に完全に対応することは困難です。そのため、まずは後継者が気になる課題に焦点を当て、その課題の優先順位をつけて改善することから始めましょう。

4.事業承継計画の策定とマッチング

ここからのステップは、事業承継の方法によって異なり、親族内外の承継と第三者への承継(M&Aなど)に分けることができます。

事業承継計画を策定する(親族内承継、親族外承継の場合)

後継者が親族内または社内の従業員である場合、事業承継計画を策定する必要があります。

事業承継計画は、承継後の経営状況に大きな影響を与えるため、現経営陣と次期経営陣の間で十分に協議する必要があります。

また、事業承継の時期が決まったら、それまでに引き継ぐべき知識やノウハウ、後継者の育成方法などを検討することが重要です。

マッチング(第三者承継の場合)

社外から後継者を招聘する場合、M&Aアドバイザーや仲介業者などの専門家に相談し、購入希望者とのマッチングを行うことが一般的です。

専門家は様々な角度からサポートしてくれますが、コンサルティング会社によってサポートの内容や料金、買い手企業の傾向などが異なるので注意が必要です。

M&Aアドバイザーや仲介業者の中には、後継者育成や経営改善の支援を行ってくれるところがあります。弊社では財務のアドバイスはもちろん、経営改善支援も行っているため、気になる方はぜひお気軽にご相談ください。

5.事業承継・M&Aを実行する

ここまでくれば、あとは事業承継やM&Aを実行するだけです。ただし、その際にはいくつかの注意点がありますので、以下、事業承継とM&Aに分けて詳しく説明します。

事業承継の実施(親族内承継の場合、親族外承継の場合)

事業承継の時期が到来すると、あらかじめ決められた計画に沿って事業承継が行われます。しかし必ずしも計画通りに進むとは限らないので、頻繁に計画を「ブラッシュアップ」「修正」することが重要です。

例えば、後継者の育成が経営権の譲渡に間に合わない場合は、多少コストがかかっても、よりスピーディーな育成方法(セミナーを利用するなど)に変更することも必要でしょう。

周辺環境への影響を考えると、事業承継のタイミングをずらすことは難しいため、計画内容を頻繁に見直すことでスケジュール調整をしていくことをおすすめします。

実施には法的手続きや税負担が伴うため、可能であれば専門家(弁護士、税理士等)のサポートを受けることが望ましいです。

M&Aの実施(第三者承継の場合)

M&Aの実施プロセスでは、「PMI」と呼ばれる事業の統合プロセスを確実に実行することが求められます。

もちろん、相手企業の選定や契約も重要ですが、PMIは『M&Aの成否の鍵を握る』と言われており、プロセス全体の中で特に重要な役割を担っています。

PMIは基本的に買い手が行うものですが、売り手でも協力することができます。買い手と売り手が協力し、必要な情報をお互いに提供し、事細かに議論していく必要があるのです。

おわりに

事業承継を円滑に進めるためには、長期的な視点に立った事業承継計画を策定することが必要です。そのためには、今回ご紹介したような流れで、できるだけ早期に事業承継を開始することが必要といえます。

事業承継についてお悩みがある方は、ぜひ早い段階から税理士等の専門家の支援を受けることをおすすめします。