従業員満足度(ES)向上に取り組み離職率を下げる方法

従業員満足度(ES)向上に取り組み離職率を下げる方法

”人”は、企業の成功において最も重要な資産の一つです。しかし、少子化の影響で、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに年々減少に転じており、人手不足が深刻化していくと言われています。そのため、売上を上げるために仕事をとってきても、出来る人がいなければ長時間労働になり離職者が増えてしまいます。けれど、生産年齢人口が減っていくため採用活動が困難になり、優秀な人を採用しにくい状況になります。このような事態に陥らないために、従業員満足度を向上し、離職率を低減させ、人を育てることが重要です。

人を採用してもすぐ辞めてしまう

  • 人を採用してもすぐに辞めてしまい採用や教育にコストがかかる
  • 人手不足により長時間労働が当たり前になっている
  • 従業員のモチベーションが低く生産性が悪い
  • 従業員の不満が多く、職場の雰囲気が悪い

2020年版小規模企業白書によると、「自社が直面する経営課題のうち、重要と考える課題」で最も多かったのが、「人材(人材の確保・育成、後継者の育成・決定)」です。このことから、上記のような問題を抱えている中小企業の経営者は多くいることが分かります。
人が定着しない原因の調査と改善施策の実施が必要になります。本記事では、従業員満足度(ES)向上に取り組み離職率を下げる方法を解説します。

従業員満足度(ES)とは

従業員満足度(Employee Satisfaction)とは、従業員が自身の職場や仕事に対してどれだけ満足しているかを示す指標です。これは、労働条件、職場環境、組織文化、キャリアの成長機会、給与・報酬など、様々な要素に影響されます。
従業員満足度が高い場合、従業員は仕事に対するモチベーションが高く、生産性が向上し、組織全体のパフォーマンスが良くなる傾向があります。また、高い満足度は従業員の定着率を高め、組織にとって貴重な人材を維持しやすくします。
従業員満足度が低い場合、従業員は不満を抱えやすく、離職率が上昇する傾向があります。このような状況では、生産性の低下や労働環境の悪化などが起こる可能性が高まります。
従業員満足度は、組織の健全性や持続可能性に影響を与える重要な要素であり、組織全体が積極的に向上させるべき対象です。それを把握するためには、定期的な調査やフィードバックの収集が必要です。

離職率とは

離職率とは、ある期間内に組織や企業から離れる従業員の割合を示す指標です。離職率の計算式に明確な定義はなく調査機関により異なります。主に以下の計算方法で算出されます。

離職率 = 一定期間内の離職者数 ÷ 一定期間内の調査時点での常用雇用者数
3年離職率 = 3年前に入社した人のうち離職した人数 ÷ 3年前に入社した人数
10年離職率 = 10年前に入社した人のうち離職した人数 ÷ 10年前に入社した人数

離職率が高い場合、組織は従業員の入れ替わりが激しくなり、新たな人材を採用・育成するコストが増加します。また、組織の安定性や継続的な業績にも悪影響を与える可能性があります。

従業員満足度と離職率は密接に関連しています。従業員が満足している場合、離職率は低くなる傾向があります。逆に、従業員が不満を抱えている場合、離職率は上昇する可能性が高まります。組織は従業員の満足度を向上させる取り組みを行うことで、離職率を下げることが重要です。

従業員満足度の調査方法

従業員満足度を向上させるために手間をかけて施策を実施しても、従業員に必要とされていない施策であれば意味がありません。従業員満足度を調査することで、従業員が職場環境や文化に対してどのように感じているか把握し、人事評価、福利厚生、労務管理などの環境改善に活用することができます。
調査方法は以下の手順で行うことが一般的です。

  1. 調査の目的と範囲の設定
    初めに、なぜ従業員満足度の調査を行うのか、その目的を明確にします。また、調査の対象範囲(全社、特定部門など)を定めます。目的には、組織の課題を把握するためや、環境改善施策の効果測定などがあります。
  2. 調査方法の選定
    アンケート調査、面談、グループディスカッションなど、適切な調査方法を選びます。一般的にはアンケート調査が広く用いられているため、ここではアンケート調査を選定した場合を解説します。
  3. 質問項目の作成
    有効な質問項目を考えます。これには、職場環境、上司や同僚との関係、仕事の内容やタスクの分担、キャリアの成長機会などが含まれます。アンケート調査では匿名性を保証することが重要です。匿名性を保証することで、従業員の本音の意見を収集できます。
  4. 調査の実施
    調査の実施時期を選定し、従業員に対してアンケートを配布して回答を得ます。
  5. データの収集と分析
    得られたデータを集計し、傾向や特徴を分析し、必要な改善点やポジティブな要素をまとめます。
  6. 改善策の実施
    調査結果に基づき、具体的な改善策を立案し、実施します。
  7. フィードバックと継続的な改善
    改善策の実施後、従業員のフィードバックを収集し、継続的な改善を行います。

従業員満足度を向上し離職率を下げる取り組み

ここからは、従業員満足度を向上し離職率を下げる取り組みについて具体的に解説していきます。

社内コミュニケーションの強化

上司や部下、先輩、同僚とのコミュニケーションは従業員満足度を向上する上で、最も重要です。特に在宅勤務や個人営業の多い企業では、どうしてもコミュニケーションが希薄化します。コミュニケーションが少ないと、帰属意識が低下し、孤独感が高まり、何か問題や不満があった時に相談出来ないため、離職に繋がります。

部下が相談できる時間を作る

従業員間でトラブルがあった時や、仕事やキャリアに不満を持っている時など、普段からコミュニケーションが少ない環境だと、上司が気づけない場合があります。週に1回や月に1回など、定期的に一人一人と話をする機会を設けることが重要です。そこで、仕事に関する悩みや不満などを相談することができます。

気軽に話せる環境を作る

上司と部下以外の関係性でも気軽にコミュニケーションとれる環境を作ることも重要です。上司に直接言えない悩みなどを先輩や同僚に相談することが出来ます。例えば、何でも相談できる社内SNSの導入や、飲み会やランチ会を実施する、朝10分間で話をしながら清掃する時間を作るなどがあります。また、コーチやカウンセラーなど外部を活用するのも一つの方法です。

仕事内容を本人の希望に出来るだけ合わせる

仕事の内容やタスクが自身の能力や興味に合っているかどうかは、従業員の成長意欲やモチベーションに大きく影響します。例えば、専門的スキルを活かしたいのに全く関係のない仕事ばかりであったり、雑用ばかりであったりすると、やる気が低下し離職に繋がります。一方、自身のスキルを活かせる仕事に従事していると、意欲的に仕事に取り組めます。そのため、従業員本人の希望を定期的に確認し、希望の仕事が出来る環境を整える事が大切です。しかし、希望に沿わない仕事をしてもらうしかない場合は、本人に理由をしっかり伝えましょう。そうすることで、今は異なる仕事でも希望の仕事が出来るよう考えてくれていると感じ、モチベーションの低下を幾分か防げます。
このように従業員のモチベーションを高めることで、従業員満足度の向上につながります。

ワークライフバランスの支援

ワークライフバランスとは、仕事と生活の両方をバランスよく保つことを指します。ワークライフバランスを整えるには、仕事を最優先にするのではなく、休息の取得、趣味や家族との時間を確保する等、プライベートの時間を充実させることが大切です。そうすることで、従業員は心身ともに健康になります。その結果、仕事に対するモチベーションが高まり、従業員満足度が向上します。
また、制度として整えるだけでなく、制度を利用しやすい雰囲気づくりが重要です。経営者や上司が有給休暇を使わず長時間労働をしていると、部下は休みたくても休みづらくなってしまいます。制度を整えたら、まずは経営者や上司が積極的に利用するようにしましょう。残業している従業員や休みを取らない従業員がいたら、声掛けすることも有効です
ワークライフバランスを改善する具体的な取り組みとしては、以下のようなものが上げられます。

労働時間の適正化・長時間労働の防止

長時間労働をしなくていい環境づくりが重要です。労働時間を適正化するためには、以下のような方法があります。

  • 仕事内容の整理
    1日のうち何にどれだけ時間を費やしているかを明確にし、短縮できるものや無駄な仕事を削減します。例えば、定例会議など開催自体が目的となる会議は、生産性の低い時間になりがちです。出席の必要がない人はいないか、時間をかけすぎていないかを見直します。
  • 仕事内容の標準化、手順化
    人によってやり方が異なる仕事を標準化し手順化することで、仕事の効率化を図り、属人化を防ぎます。属人化とは、特定業務の手順や状況が担当者しか分からず、その担当者がいなくなった時に業務が滞ってしまう状態のことです。業務手順を明確にし、業務マニュアルの作成や、必要資料のフォーマット作成、同じ仕事を抱える人を2人以上作ることなどが有効です。専門・技術職でマニュアル化が難しい場合は作業手順を動画撮影し社内で共有するなども有効です。
  • 業務のデジタル化
    ITツールやロボットの導入で、繰り返し作業を自動化し、業務時間の短縮や人間のミスを減らすことが出来ます。例えば飲食店の場合、セルフオーダーシステムやセルフレジを導入すれば、顧客自身で注文や支払いを完結できます。事務作業の場合、電子承認・決裁システムの導入で、紙で行っていた社内の申請・承認をデジタル化することで、対面でのやり取りを無くし、承認までの時間の短縮や、手作業によるミスを減らすことが出来ます。

ワークラフバランスを整えるための制度

ワークラフバランスを整えるための制度には、以下があります。

  • 有給休暇の奨励・ノー残業デー
    有給休暇を取得することを奨励し、リフレッシュや休息を促します。
  • 休憩取得の奨励
    定時に休憩を取るよう奨励し、リフレッシュを図ります。
  • フレックスタイム制
    フレックスタイム制は、定めた総労働時間の範囲内で、始業・終業時刻を従業員自ら決めることができる制度です。
  • 時短勤務制度
    通常の労働時間よりも短い時間で働く働き方です。育児や介護のために一時的に勤務時間を減らす「短時間勤務」や、定期的に勤務日を減らす「週休3日制」などがあります。
  • 在宅勤務制度
    会社の施設に出向かず、自宅や遠隔地から仕事を行う働き方の制度です。
  • 副業制度
    従業員が会社の仕事とは別の仕事や活動を行うことを容認し、サポートするための制度です。
  • ストレスやワークライフバランスの相談窓口の設置
    従業員が相談できる窓口を用意し、適切なサポートを提供します。

リーダーシップやマネジメントの向上

上司や管理職のリーダーシップスタイルやサポートの質は、従業員満足度に大きく影響します。リーダーシップやマネジメントを向上させるためには、業務をこなす能力とマネジメント能力を区別して考えることが大切です。
上司や管理職に求められるスキルには以下があります。

  • リーダーシップ
    チームを指導し、方向づけ、目標達成に向かって進むためのスキル。
  • コミュニケーション
    良好な人間関係を構築するコミュニケーション能力。チームの協力と協調を促進し、メンバー間の信頼関係を築く必要があります。
  • 問題解決能力
    複雑な状況に柔軟に対処し、解決策を見つける能力。
  • 計画・組織能力
    目標を立て、それに向けて戦略的に計画を立て、リソースを適切に組織する力。

仕事が出来るからと言って、マネジメント出来るとは限りません。管理職に就くためには、上記のスキルを身に着ける必要があります。小さなグループの管理や、リーダー研修を受けるなどして、スキルを身に着けてから管理職に就ける仕組みを作る必要があります。スキルのないまま管理職になってしまうと、本人も部下もストレスになります。
また、プレイヤーとしてのやりがいを重視していて、管理職になりたくない人も多くいます。しかし、本人が望まないまま管理職に昇進してしまうと、ストレスとなりモチベーションが下がり、離職に繋がる場合もあります。それを防ぐためには、特定分野に深い専門的スキルを持つ「スペシャリスト」のような役職を作り、専門的な知識や能力を評価することで管理職と同じように評価できる仕組みを作ることも重要です。多くの企業で誤った管理職の抜擢が見受けられます。仕事ができるかどうかは管理能力の判断基準にはなりません。名選手、名監督にあらず。仕事ができる人には「対価」を与え、管理能力がある人には「地位」を与える。ここにミスマッチが起きると、優秀な人材を失います。

適切な評価とフィードバックを行う

自分の仕事が会社に認めてもらえるという信頼感や、自分のスキルや能力が伸ばせる環境であるという充実感を持つと、モチベーションが向上し、従業員満足度が向上します。そのため、定期的に、適切な評価やフィードバックを行い、それに基づいて報酬を提供することが重要です。適切な評価とフィードバックを行う際は、従業員本人が評価理由を理解し、納得している状況にすることが重要です。適切な評価を行うポイントは以下になります。

  • 評価プロセスの明確化
    評価プロセスを明確にし、従業員に周知し、納得してもらうことが重要です。従業員本人がなぜこの給与なのか理解している状況にします。
  • 客観的な評価
    評価は出来るだけ客観的な判断に基づき行われることが重要です。その従業員の働きぶりを知らない人事や、上司のみの主観的要素が強い評価にならないようにします。一緒に働く同僚や先輩の判断も取り入れお互いに評価しあう方法や、評価指標に基づきポイント制で評価する方法など、客観的に評価できる仕組みにします。
  • 評価面談
    定期時に評価面談を設け、従業員自身が頑張ったことをアピールする時間と、上司が評価・フィードバックする時間を作ります。
  • 給与以外の評価
    企業の成長に貢献した従業員や一定期間ずっと勤続した従業員を表彰する制度や、社内コンテストを実施します。また、普段から感謝や賞賛の気持ちを言葉にして伝え合うようにすることも大切です。

キャリアパス制度の導入

キャリアパス制度とは、従業員が組織内でキャリアを築いていくための道筋や教育プログラムを指します。昇進や昇格に向けたキャリアパスを明確に示すことで、従業員の目標達成を支援しモチベーションを向上させます。
キャリアパスは、「階層の作成」「各階層に業務内容・求められる能力・資格を設定」「各階層の育成計画を作成」「各階層の給料を設定」「各階層の昇格条件など評価制度を設定」というステップで作成します。
このようにキャリアパス制度を作成し、キャリアパスが明確になると、従業員は将来のビジョンを具体的に思い描けるようになります。これにより、将来への不安や待遇面での不満を解消し、目標達成のために具体的な行動に移せるようになります。そして、従業員が目標達成に向けて意欲的に取り組めるようになると、従業員満足度が向上します。

給与や福利厚生

仕事に見合う十分な給与や福利厚生があることで、従業員の生活に安定感を提供し、従業員満足度が向上します。給与や福利厚生を見直して、従業員満足度向上を図りましょう。

給与

従業員の役割や貢献に基づいて公正な報酬を設定します。給与や昇進の基準を明確にし、透明性を確保します。また、給与については賞与も含め条件を雇用契約書に記載しています。赤字が続いていても、給与や賞与をカットしてしまうと、違法となりますので注意してください。

福利厚生

福利厚生とは、給与以外での従業員に提供する福祉や経済的な報酬のことです。福利厚生を充実させることで従業員の生活の安定感を高めます。福利厚生の例には以下のようなものがあります。

  • 通勤費補助
  • 住宅手当
  • 育児支援・介護支援
  • 教育支援
  • 社員割引
  • 保養施設利用の割引
  • 退職金制度
  • アウトソーシングの福利厚生サービスの導入
    「福利厚生倶楽部」や「ベネフィット・ステーション」など

職場環境の整備

快適な作業環境、設備の整備、清潔さなどが重要です。労働安全衛生法により、快適な職場づくりは事業者の努力義務とされています。
特に建設・土木業界の現場では、作業場所が屋外ということもあり事故や健康上のリスクがあります。更衣室や綺麗なトイレ、休憩室の設置などを行うことで、ストレスが軽減され事故を防止し、熱中症予防などの体調管理が行えます。
オフィスでは、空調管理やドリンクサーバの導入、座りやすい椅子とテーブルの設置などを行うことで、快適に作業ができ、生産性の向上や従業員満足度の向上に繋がります。

経営理念や組織文化

経営者が確固たる経営理念をもって経営にあたっていると、企業文化にあらわれ、従業員満足度に影響を及ぼします。企業文化は、企業に根付いている独自の価値観や行動様式です。組織文化が従業員の個々の貢献を評価し、認める文化であれば、従業員はやりがいを感じます。また、経営理念は従業員が共感し、実行可能なものであることが重要です。従業員が組織の目標や価値観に共感することで、仕事へのモチベーションが向上します。

まとめ

従業員満足度(ES)を向上させる取り組みとは、従業員を最も重要な資産と位置づけ、彼らの能力を最大限に発揮できる環境を作り、育成することです。経営の神様と呼ばれるピーター・ドラッカーは、「人はコストではなく資源である」と語っています。従業員をコストにしてはいけません。従業員とコミュニケーションをしっかりとって、定期的に悩みや不満をヒアリングし、従業員満足度の向上に取り組み、離職率の低下を図りましょう。

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