事業承継の費用はどのくらいかかる?節税は可能?費用を抑えるコツを解説
「事業承継を行う場合、費用はどのくらいかかる?」
「事業承継の費用を抑える方法はある?」
事業承継の費用について、このような疑問を抱える経営者も多いのではないでしょうか?
事業承継とは、会社の経営権を後継者に引き継ぐことです。
ただ引き継ぐだけではなく、会社を親族や第3者に引き継ぐ場合、税金などの費用がかかります。
初めて事業承継を行う経営者であれば、どのくらいの費用がかかるか事前に把握したいでしょうし、なるべく費用負担を抑えたいと思うでしょう。
そこでこの記事では、事業承継の費用がどのくらいかかるのかについてご紹介し、費用を抑えるコツなども解説します。
事業承継の費用はどのくらいかかる?税金の内訳
結論からお伝えすると、事業承継の費用はそれなりに負担が大きくなります。事業承継にかかる費用は、主に以下7つです。
- 相続税
- 贈与税
- 法人税
- 消費税
- 登録免許税
- 不動産取得税
- M&Aの費用
それでは、順番に解説します。
相続税
相続税とは、経営者が死亡した場合に、株式などを含む資産を配偶者や子などの親族に相続させる場合に課せられる税金です。
相続税には、累進課税制度が設けられており、税率は1,000万円以下の10%から6億円超の55%まで課せられます。
法定相続分に応じた取得金額 | 税率 | 控除額 |
〜1,000万円 | 10% | – |
1,000〜3,000万円 | 15% | 50万円 |
3,000〜5,000万円 | 20% | 200万円 |
5,000万〜1億円 | 30% | 700万円 |
1〜2億円 | 40% | 1,700万円 |
2〜3億円 | 45% | 2,700万円 |
3〜6億円 | 50% | 4,200万円 |
6億円〜 | 55% | 7,200万円 |
参考:国税庁「相続税の税率」
相続税の基礎控除額は、法定相続人の人数によって異なりますが、以下のように求めます。
- 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
事業承継を検討している経営者は、上記計算式を把握し、事前に相続税のシミュレーションを行っておくと良いでしょう。
なお、事前に計算しておくだけでなく、税務調査の対策も行っておく必要があります。
相続税における税務調査はどんな場合で行われるのか、あるいはどんなことに気をつけるべきかなどを知っておくと、正しい申請ができるようになります。
詳しくは以下の記事で記載しているため、参考にしてみてください。
内部リンク:【相続税の税務調査の対策は?リスクを軽減する方法とよくある質問を徹底解説】
贈与税
贈与税とは、他人に自分の資産を渡したさいに課せられる税金のことです。
相続税と同様、贈与税にも累進課税制度が設けられています。
基礎控除額の金額が200万円以下の10%から3,000万円超の55%まで課せられる仕組みです。
《一般的な贈与税の税率》
基礎控除額後の課税金額 | 税率 | 控除額 |
〜200万円 | 10% | – |
200〜300万円 | 15% | 10万円 |
300〜400万円 | 20% | 25万円 |
400〜600円 | 30% | 65万円 |
600〜1,000万円 | 40% | 125万円 |
1,000〜1,500万円 | 45% | 175万円 |
1,500〜3,000万円 | 50% | 250万円 |
3,000万円〜 | 55% | 400万円 |
上記税率は、一般的な贈与税となり、兄弟間の贈与や夫婦間の贈与、親か未成年の子どもへの贈与が対象です。
一方、贈与税には「特例贈与財産の税率」があり、一般税率よりも税率の上がり方が緩やかになっています。
《特例贈与財産の税率》
基礎控除額後の課税金額 | 税率 | 控除額 |
〜200万円 | 10% | – |
200〜400万円 | 15% | 10万円 |
400〜600万円 | 20% | 30万円 |
600〜1,000円 | 30% | 90万円 |
1,000〜1,500万円 | 40% | 190万円 |
1,500〜3,000万円 | 45% | 265万円 |
3,000〜4,500万円 | 50% | 415万円 |
4,500万円〜 | 55% | 640万円 |
特例税率は、祖父母や父母などの直系尊属から子や孫などへの贈与で、贈与される側がその年の1月1日時点で成人の場合に適用されます。
贈与税には、一般税率と特別税率があることを理解しておきましょう。
法人税
法人税とは、法人が得た利益に対して課せられる税金のことです。
相続税や贈与税とは異なり、税率が一律に決まっています。
一般的に、通常の事業承継しただけでは法人税はかかりません。
しかし、事業譲渡の場合は売却益は法人に入るため、それに対して法人税がかかるようになります。
消費税
消費税とは、商品やサービスを消費する際に課せられる税金のことです。
2019年10月から軽減税率が導入されたことで、酒や外食以外の飲料食品が8%で、その他は10%かかります。
一般的に、消費税も事業承継しただけではかかりません。
中には、株式譲渡は資産譲渡に該当するため「消費税がかかるのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、消費税は非課税扱いになります。
ただし、事業譲渡を行う上で、個々の資産が譲渡された場合は、消費税が課税されるため、注意が必要です。
登録免許税
登録免許税とは、土地・建物を購入して、所有権を登記する際にかかる税金のことです。
登録免許税は、登記の種類によって税率が異なります。
登記の種類 | 土地の評価額に対する税率 |
土地の所有権移転 | 2% |
会社の合併による移転 | 0.4% |
会社分割 | 2% |
事業承継を行う際、さまざまな登録変更や登記変更をしなければならないため、登録免許税は必ずかかるものだと把握しておきましょう。
不動産取得税
不動産取得税とは、土地や建物などを購入した際に発生する税金のことです。不動産登記の有無にかかわらず、必ず課税されます。
登記の種類 | 土地の評価額に対する税率 |
土地や建物の取得 | 3% |
住宅以外における家屋の取得 | 4% |
ただし、亡くなった人から相続する場合は不動産取得税は発生せず、生前贈与の場合に不動産取得税が課税されます。
M&Aの費用
M&Aとは、企業の合併買収のことです。
事業承継をM&Aで行う場合のみに、仲介手数料がかかります。
手数料の内訳として、相談料・着手金・中間金・月額費用・成功報酬があり、これらを仲介会社に依頼する際に払う仕組みです。
大体の相場は以下の通りとなっているため、事前に把握しておくと良いでしょう。
手数料の項目 | 相場 |
相談料 | 約1万円 |
着手金 | 約200万円 |
中間金 | 100〜200万円 |
月額費用 | 約100万円 |
成功報酬 | 買収金額×約5% |
事業承継の費用は相談先によっても異なる!専門家別の費用の相場
ここまで、事業承継にかかる費用についてお伝えしましたが、どの専門家に相談するかによっても費用は異なります。
結論からお伝えすると、税金を多く取り扱うため、税務知識が豊富な税理士に依頼するのがおすすめです。
しかし、中には会社ごと売却する方もいるため、そのような方はM&Aアドバイザーに相談することをおすすめします。
次から、詳しく解説します。
後継者が決まっている場合
後継者が決まっている場合、税理士に相談することをおすすめします。
税理士は、相談・各段階での支援や顧問契約のサービスを提供しています。
特に事業承継の支援を行っている税理士は、会社経営の知識やノウハウが豊富ですから、経営計画や組織再編計画、事業承継税制に伴う申請書作成などの対応が可能です。
そのため、税務と経営の両方の視点から的確なアドバイスを受けられるでしょう。
ただし、税理士に依頼すれば安心できますが、必ずしもうまく行くとも限りません。
依頼して失敗しないために、以下の記事を参考にしてみてください。
内部リンク:【事業承継は税理士に依頼するのが一番!?失敗しないためのポイントも解説】
第3者に会社ごと売却する場合
後継者を定めてなく、第3者に会社ごと売却する場合は、M&Aアドバイザーに依頼することをおすすめします。
事業承継の計画や資金対策、クロージングなどを行ってくれるため、面倒な作業を行う必要がありません。
ただし、着手金や中間金などで数百万かかるため、費用負担は大きくなります。
M&Aアドバイザーに依頼する場合は、まとまったお金を用意しましょう。
事業承継の費用は節税可能?費用を抑えられる補助金・制度3選
事業承継の費用負担は重くなりがちですが、実は工夫次第で費用を抑えることができます。
事業承継を後押ししてくれる補助金制度を活用すれば、費用負担を抑えつつ事業を引き継ぐことが可能です。
費用負担を軽減しながら事業承継を行いたい方は、以下3つの制度を検討しましょう。
- 事業承継補助金
- 事業承継税制
- 融資制度
それでは、順番に解説します。
事業承継補助金
事業承継補助金とは、M&Aに伴って行われる経営革新や事業を引き継ぐ場合にかかる経費を一部補助してくれる制度です。
事業承継・引継ぎ補助金には、以下3つの類型があります。
補助金 | 補助率 | 対象経費 | |
経営革新事業 | 600万円 | 2/3 | ・設備投資・店舗の借入費・人件費・改装工事費用 など |
専門家活用事業 | 600万円 | 2/3 | ・委託費・マッチングサイトのシステム利用料・デューディリジェンス費用・セカンドオピニオン など |
廃業・再チャレンジ事業 | 150万円 | 2/3 | ・廃業費・在庫廃棄費・解体費 など |
参照元:中小企業庁
M&Aを機に、経営革新に挑戦したい事業者やM&Aで他者から事業を引き継ぐ事業者などが対象です。
要件さえ満たせば、個人事業主も対象に含まれるため、費用負担を減らしたい個人事業主の方は特に検討するべきでしょう。
事業承継税制
事業承継税制とは、自社株を引継ぐ後継者のみ納税猶予を受けられる制度です。
事業承継税制を受ける条件としては、後継者が5年以上事業を継続しなければならないことが大前提となります。
その上、特例承継計画の策定が必要など、細かな条件をクリアしなければなりません。
これらの一定の要件を満たした後継者には、自社株にかかる相続税・贈与税の100%猶予が受けられるようになります。
融資制度
融資制度は、日本政策金融公庫が中小企業に対して行っている制度です。
会社を立ち上げてから約7年以内であれば、最大7億2,000万円の融資が受けられます。
ただし、融資を受けるには、以下の条件に満たす必要があります。
- 今の経営者と後継者が、中期的な事業承継の計画をしっかりと練っている
- 経営が安定することを目的に、事業承継・事業の集約を実施する
- 事業承継に伴い、第二創業・新しいことに着手する
また、融資利率については、個別の審査で決定するため、一概に〇%と断言はできません。
ただし、大半は上限が3%となり、基準利率よりも低い特別利率が適用されます。
まとめ
本記事では、事業承継の費用がどのくらいかかるのかについてご紹介し、節税や費用を抑えるコツなども解説しました。
相続税や贈与税などの税金が多くかかりがちですが、依頼先によっては、費用が異なります。後継者が決まっているのであれば、「経営」「税金関係」の高いノウハウを持っている税理士に依頼することをおすすめします。
仮に、費用負担が重いと感じる方は補助金や融資制度も検討してみましょう。